ナショナル国民受信機 Z-2

所謂、戦後の国民型受信機ではなく、ナショナルが独自に国民受信機と命名したZシリーズで、
これは並四のZ-2型です。新Z-2も所有していますが、まったくデザインが異なります。
当時としては少ない横行ダイヤルで、縦型ラジオを小型にしたような雰囲気があります。

最も大きな問題は、電源トランスが交換されており、フィラメント電圧が不適切になっています。
26Bは1.5Vですが、2〜2.5Vになっているため26Bが断線していました。
当時は商用電源電圧が低かったのかもしれませんが、随分と乱暴な修理をしたものです。
電源トランスの巻線を調整すればよいのですが、手間が掛かるので、抵抗で電圧調整しました。
その他、低周波トランス、電源チョークも断線しているので、かなり費用のかかる修復となって
しまいました。入手時の回路は、こちらです(PDFファイル)。

電源1次側のコンデンサも、スイッチの後に付けるべきです。
修復後の回路は、こちらですが、一応、鳴るようにしただけで、
トランスも交換されていることから、オリジナル回路が不明のままでした。フィラメント回路も
無理があります。
そんな状況でしたが、HPを見た長崎の折戸氏から原回路の情報をメールいただきました。
氏からの情報によると、オリジナルは、このようになっているそうです。
何とスピーカが出力管のカソードに挿入されています!
これにはびっくりしました。松下には、独特の回路構成を取る場合がありますが、
これは見たことがありません。ただ、残っていた部品からすると、確かにその名残が確認できます。
残念ながら、トランスが無いので、オリジナルは断念しました。
この場を借りて、情報をいただいた氏に感謝します。

追加情報:その後、折戸氏より初歩のラジオ1954年3月号の記事を紹介いただきました。
まさしくZ-2のことを、或いは同様の機種を示しているものと考えられます。(2011/2/5)
この記事から推測すると、26Bの入力はトランス結合であったようです。またバイアス回路が独特なので
上記オリジナル回路も見直しが必要になりました。本来のオリジナルはどうだったのか
大変興味のあるところです。

「関西のある有名な大ラジオメーカーによって昭和12年頃発売された旧型並4受信機の回路で、
2段目低周波トランスの1次線およびマグネチックスピーカーを、それぞれ26Bおよび
12Aのカソード回路に入れたもので、こうしても普通の接続のときと同じように増幅し、
しかもトランスの1次線やスピーカーの直流抵抗がバイアス抵抗をかね、普通はそれに並列に
入れるバイパスコンデンサーもなくてOKなので、いちじるしく製造価格が低下できる有利な
回路であります。というのは当時は今日のように電解コンデンサーがなく、あっても研究試作時代で、
性能が不安定で信頼性がなく信用を重んずる大メーカーでは採用しませんでした。
 とするとバイパスコンデンサーには1μFとか2μFのペーパーコンデンサーを使用せねばならず、
それは今も昔も同様比較的高価だったのでなるべく使いたくなかったのです。
 この回路のミソは各トランス2次側のアース側に入っている0.01μFのコンデンサーと500k抵抗で、
これがないと今日一部の人が賞用している、カソードフォロアー回路になってしまって増幅しなく
なってしまいます。
 しかしこの回路にも欠点はあるので、すなわち2段目の一次線は26Bのバイアス抵抗に適するように
一般の場合より高抵抗にせねばならず、同様にスピーカーコイルも12Aに適度なバイアスが
かかるよう高抵抗にしなくてはならず、それぞれ特定の部品が必要になり、またそれらを
プレート電流=カソード電流が流れるので断線のチャンスがあることは、それらをプレート回路に
入れた場合と同様です。
 こうした技術的に見れば面白い回路を持つ受信機も末端販売機構である小売屋さんに理解
されなかったために評判は芳しからず、いくばくもなくこの形式のセットは姿を消しました。
 ともかく日本ではセットメーカーや球メーカーがいくら笛、太鼓で宣伝しても、小売屋さんに
アッピールしない受信機は商売にならぬことになってしまいます。
 しかし技術的には興味あるものですから皆様もチャンスがあったらぜひ実験してみてください。
増幅管が傍熱管の場合は、フィラメントの中性点に行くべき所をカソードに結べばよろしい。」

昭和12年頃発売
入手時:UY-56(不明), UX-26B(DON), UX-12A(ELX),KX-12B(マツダ)
オリジナル:27A,26B,12A,12B
(2008年6月入手)


裏板はオリジナルのようです。マツダ真空管のラベルが貼られています。
電源コードも硬化している部分もありますが、試験通電程度なら大丈夫そうです。
(危険なので、まねしないでください。)




内部です。割りと綺麗なので、以前に修理されたようです。
スピーカの配線が雑で、電源スイッチが無くなっており、半田で短絡されています。




側面に貼り付けられていたラベルです。特許、実用新案、商標登録一覧と、
「ソケットに注意 挿違へると断線します」の注意書きがあります。
26B, 12A, 12Bは同じ4ピンソケットですが、フィラメント電圧が違うので、
間違えると26Bは確実にお釈迦になります。(このラジオは、別の理由で断線していましたが。)




試験表です。製作番号:19751。残念ながら、試験日が記載されていません。



「Z−2」の捺印がありますが、この時期のZシリーズに共通で使用している
マグネチックスピーカのようです。




シャーシ前面です。低周波チョークの上に抵抗が付いているということは、
チョークが断線している証拠です。

パイロットランプがありません。PL取付部は板金が腐食してぐらついています。
安価なラジオにしては、凝った横行ダイヤル機構です。




ダイヤル部です。Z-1はこれの縦型になっています。
プーリーはグリスが固化して回転していません。洗浄後に注油する必要があります。
メモリは0-100で、周波数表示がありません。
Z-1もZ-3も周波数表示があるので、なぜZ-2だけ無いのか不思議です。



シャーシ内部の様子。上部の1:3トランスは断線しています。
かなりの修理の後が確認できます。特にヒーター/フィラメント周りの配線が、めちゃくちゃで、
どのように接続されているか書いてみないと理解できません。このようなラジオは初めてです。
B電圧の配線も空中接続になっており、素人が修理したようです。




電源トランスが交換されています。おまけにフィラメント/ヒーター電圧がおかしいです。
27A/56用:2.5V、26B用:1.5V、12A用:5Vの3種類が必要ですが、
0/2.5V/5V/6.3Vの1巻線しかありません。ラベルも上下逆になっています。
6.3Vのリード線がないので、0/2.5/5Vに加工したようですが、傍熱管と直熱管を同じ巻線で
供給するという、無茶な修理になっています。
1.5Vタップがないので、26Bに2.5Vが供給されています。
または、1次電圧が低かったので、何とか動作していたのでしょうか?
入手時回路図を参照してください。こちら



部品、配線を取り外したシャーシです。ソケットはハトメで固定されているので、オリジナルです。
マジックの番号は、修理時に書いたようです。



使用されていた真空管。56, 26B, 12A, 12B
56(メーカ不明)はベースがぐらぐらで、からから音がします。
26B(DON)はフィラメントが断線しています。12A(ELX), 12B(マツダ)は使えるようです。




修復後のシャーシ内部です。1:3トランスは東栄変成器製です。
抵抗は一部交換、ケミコンはラグ端子に半田付け、ハムバランサーは使用できました。
26Bのフィラメント電圧を下げるためにセメント抵抗を挿入しました。
両端子に入れればよいのですが、手持ちで片側になっています。



修復後の前面部です。四角いペーパーコンは飾りです。
30Hのチョークは、以前に内田ラジオで購入してあったものです。
ダイヤルのスプリングは使えましたが、糸は交換しました。




ダイヤル窓のセルロイドは、アクリサンデーで磨くと綺麗になります。
スピーカは、簡易コネクタで取り外しできるようにしてあります。
音質は、再生独特のキンキンした音ですが、一応鳴るようになりました。
本来ならば、オリジナルに近づけるようにするのですが、トランスが入手
できないので、これで完了としました。


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