ビクター トランスレス高2ストレート 5A-10

一流メーカの日本ビクター蓄音器製、5球高2のストレート、しかもトランスレス
という珍しい構成だが、ヒーター及びB電圧はオートトランスによるので
セミトランスレスと言った方が正確。外観もそれに見合って立派なものです。
殆ど当時の面影を残していました。
戦時中にしては、部品点数も多く五球スーパーと遜色ないコストであったと思われます。
回路図を見るまで分からなかったのですが、両波整流管24Z-K2の片側をB電圧半波整流
として使い、残りの片側はフィールドコイル用の半波整流として使っています。
現物の配線からはなかなか想像がつきませんでした。
各部品はメーカの部品番号(J-****)が付いています。
コンデンサ類は全滅に近いので、そのままでは電源を入れられません。修復後の楽しみです。

入手時:12Y-V1(マツダ), 12Y-V1(マツダ), 12Y-R1(マツダ), 12Z-P1(マツダ), 24Z-K2(マツダ)
外形寸法:約W450×H280×D225
製造時期:1942〜1943年ころ。当時の価格¥90.6-
(2007年2月入手)

回路は、こちらです。当時の資料は、津田氏、辻野氏から提供いただきました。
それをベースに現物に合わせて修正を加えてあります。
電圧値は、修復後に感度を最大に設定した時の実測値です。
感度を下げると12Y-V1のプレート電流が減少するので、B電圧は上昇します(〜239V)。


裏から見たところ。埃が酷いです。


正面の“HIS MASTER'S VOICE”


トランスレスなので、裏蓋には赤字で注意書きが書いてあります。
薄くて見にくいですが、“御注意 裏蓋をお開けになつて内部に手を
お触れになるときは必ず電源コードを電****取り外しください”と読めます。


シャーシ固定ネジは、安全のため桟で隠されており、間違って手で触れたり
金属に接触したりしないようにしています。


内部に貼り付けられている真空管配置図。アンテナとアースは直出しです。




内部に貼り付けられた銘板。SN.10553


引き出したシャーシ。埃が酷いですが、原型を留めています。


シャーシを後ろから見たところ。コイル類はアルミのシールドケースに入っていますが、
真空管のシールドはブリキです。中央にはとても立派な3連バリコンが鎮座しています。


筐体内部です。底にはコンデンサのピッチ漏れ跡があります。


シャーシ内部です。見事にペーパーコンが爆発しています。
左端は電解コンですが、林氏の“日本の古いラジオ”では、マツダの紙ケースに
なっていますので、シリアル番号からしてもこのラジオは後年のものと思われます。


電源平滑用の巨大なコンデンサですが、膨張してブリキケースのはんだ付けが
剥がれています。これでも容量は8uF+4uFしかありません。


パラフィンが周辺部品にも飛び散っています。


電源スイッチと音量調整用のゲインボリューム部です。


左からK2, P1, R1, V1, V1です。中央のR1, V1は旧タイプなので背が高く、
それ以外は新タイプです。修理のため交換したのかどうかは不明ですが、
メーカはマツダで揃っています。


取り外した音量調整用のゲインボリューム


断線したため半田で修理されています。これだけ見るとどうやっても
巻線ボリュームにしか見えないですが、巻線型ではありませんでした!


軸を外したところです。巻線に見えますが、内側にスリットが入っており
カットされていますので、各々の巻が独立しています。何故だか理解できませんでしたが
太田氏の助言により、電極として機能していることが分かりました。

    
更に分解して、巻線部を外したところです。外周に黒い紙があります。
これが抵抗体(カーボン)であり、巻線部を押し付けることによって、
導線とカーボンが接触し、抵抗体全周に渡って電極が形成されます。
なるほどと感心しました。


接触不良で抵抗値が安定しないため、押さえ付け用のインナーに薄い紙を巻き付けて、
抵抗体と電極との接触を良くします。これで抵抗値がスムースに変化するようになりました。
組立後はワニスで防塵処理をしておきます。


巨大なコンデンサを背負ったダイナミックスピーカです。
フィールドコイルの励磁電流の平滑用になっており容量は4μFです。


出力トランスを取り去ったところです。


コーン紙も綺麗で状態は良好です。


出力トランスと箱形ペーパーコン。トランスは幸いにも断線していませんでした。
オシレータで電圧比を測定すると約55:1なので、インピーダンスは12kΩ:4Ωと推測。


ボイスコイルが見えます。手前のボルトはフィールドコイル部の固定ネジです。
このネジが不思議でした。


微妙にネジ頭の径が違っているのが分かるでしょうか?スパナで回すとき
片方はJISで合っているのですが、片方は若干大きくなっています。
4か所の内2か所が大きいので偶然ではないようです。


フィールドコイル部を外したところです。コンデンサのピッチが漏れ出しているため、
取り付け部の汚れを除去しました。


うかつにも、センターネジを取り外し忘れたまま分解しようとしたため破損してしまいました。
仕方がないのでエポキシで修復です。


最終的に組み直したところです。オリジナルのコンデンサは飾りとして残しています。
OPT上にあるチューブラケミコンが平滑用です。


見事に破裂したペーパーコン。パラフィンが流れ出しています。


中身を取り出したところです。片側がねじ込み式になっているため、
圧力がかかるとねじ込み側が外れてしまいます。


折角、ねじ式の蓋になっているので、フィルムコンを入れ込み修復することにしました。


バイパスコンは適当な直径のチューブラーを中に入れます。


修復したペーパーコン類。当時の様子が保存できました。


電源平滑用の箱ペーパーコンですが、ケースの半田が剥がれています。


中身を取り出したところですが、何かを想像させるような外観です。


中に入れる電解コン。4μFは4.7μF、8μFは10μFとしました。


底板のベークにテープ止めします。


詰め物をして、ベークの底板を付けると、案外満足できる結果となりました。
重さの再現はできませんでしたが、外観は問題ありません。
ケースは半田付けで補修してあります。


シールドケースからコイルを取り出したところ。固定用に上部には紙のスペーサーがあります。
軸はベークでなく、木製の丸棒を防湿処理したものです。基本的に3つとも同じ構造です。


上の2段が1次コイル、下の1段が2次コイルです。2次コイルから中間の1次コイルに、
結合用コイルが2ターン程巻かれています。


目盛りは550kHz〜1500kHzで、反時計回りです。部品番号J-3080と型式5A-10が書かれています。


スプリングがプーリーを囲むようになっており、回転はスムーズです。


バリコンは、エアーダスターで埃を吹き飛ばしました。錆は取れませんが、かなり綺麗になります。
さすがにビクターだけあって、がっしりと重量感のあるバリコンです。


マイカを除き、全てのコンデンサを取り去ったところです。右上の角穴は、アンテナコイルを
取り外した跡です。通常ならば配線は交換するところですが、今回はまだ使えそうなので
そのままとしました。抵抗は全て大丈夫でした。


修復した各部品を取り付けたところです。上にある修復前の写真と比べると、それなりに
原形を残すことができたのかと自己満足しています。


トランスレスなので、全ての真空管を挿さないとヒーターが点灯しません。
慎重に配線チェックをして間違いないことを確認してから電源を入れます。
ヒータートランスが断線していなかったので安心しました。


目盛り板を取り付けて周波数合わせですが、3か所のトリマを数回調整して終わりです。
高周波側で結構感度が下がっていました。目盛りは正確に一致しています。
スーパーと違い、調整は楽です。


清掃したケースに組込んで完成です。ACコードはボロボロに近いので交換すべきなのですが、
試験的動作には問題ないので残しました。真似しない方がよいです。


初めて高周波2段のストレートを修復しましたが、非常に高感度で分離も良いです。
アンテナコイルがシールドされているので、アンテナが無いと殆ど何も聞こえませんが、
数10cmのアンテナ線でローカル局がガンガン入ってきます。


各部品にはビクターの部品番号が記載されています。一覧表にしてみました。


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