國洋電機工業 真空管試験器 JI-177-C


簡易型のエミッション試験器は持っていますが、gmが測定できるものが欲しくて、
TV-7シリーズよりは、わりと安価に入手できる、国産のgm試験機をヤフオクで入手しました。
電源が入り、6BD6で一応gmらしい値が出るということで、大きな不具合はなさそです。

防衛庁向けに設計・製造されたJI-177Cと思われる機種です。
[思われる]というのは、現品の銘板は取り外されており、ラベリングが何もないためですが、
ネット調査により、外観やパネル面が一致していることからの判断です。
1964年頃から製造されているようなので、これは後期の方かもしれません。
國洋電機の型式では、VG-7Dのパネル面が近いようですが、一部仕様が異なっています。

修理には、説明書や回路図が必要ですが、この機種は、ほとんど情報がありません。
一部、関連サイトがありましたが、写真や仕様に関するものなので、参考になりません。
何とか、取説と操作基準表は入手できましたが、肝心の回路図はありませんでした。
動作原理から、ひたすらテスターで配線を追いかけながらの修理となりました。
各スイッチの設定は、操作基準表を見ながら設定するようになっています。

製造:1969年(昭和44年)
入手日:2023年2月



裏ケースを外したことろです。真空管試験器は、スイッチと配線のお化けですが、
この機種は、プリント基板が使われています。


底面から見たところ。
何か所か抵抗やケミコンが交換されているので、過去に修理したようです。



上から見ると、ソケットセレクタースイッチがあり、各種真空管ソケットに
並列に配線されています。発振防止、ノイズ除去用のチョークが入っています。


電源トランスの銘板です。
製造年月は昭和44年9月(1969.9)となっています。
裏ケース内側の捺印は、1965.9となっていますが、トランスの方が正しいようです。
裏ケースは、別物からの移植なのでしょう。

【仕様】
1次:80V
2次:45V/40mA, 100-300V/0.18A, 6.3V/0.8A, 50V/10mA
0.625-6.3V/1A, 〜19V/0.3A, 〜50V/0.3A, 〜117V/0.1A

これでは19V以下のヒーター電流が不足しますが、短時間であれば定格の3倍までは
流せるため、試験には問題ないようです。


トランスの1次側入力電圧(LINE)を調整するホーローVR
調整は問題なくできます。ここで、プレート電流を流したときにAC80Vになるように調整します。



ここから、修理に取り掛かります。

ツマミのイモネジが完全に腐蝕しており、ツマミが外せません。
これでは、再調整ができないので、何とか取り外す必要がありますが、どうも破壊するしか方法がないようです。


モールド部を割り、イモネジをむき出しにします。
この段階で、ネジザウルスでイモネジが回ればOKです。



それでもイモネジがちぎれてしまったツマミは、地道に金ノコでインサート金具を切断します。



交換用のツマミは、サトーパーツのK-2195Mです。
左がK-2195M、右がオリジナルです。Mサイズだと位置を示す突起がないですが、これは仕方がありません。



動作チェック用のサービススイッチです。
メーターが一つしかないので、各種電圧は、この切替スイッチで確認するようになっています。
直接電圧値は確認できませんが、メーターで仕様電圧の±10%以内か確認できます。

Ec1=+30V、Eb=250V/150V/100V(電流約60mA時、非安定)、Ec2=250V MAXが仕様です。

なお、Ebは、TRIODE設定のときは、Ec2が使われるため安定化された電圧となりますが、
電流が15mAしか取れません。



Ec1をチェックすると、-10%ぎりぎりです。
Ec1回路は30Vの直流電源ですが、出力の抵抗が2個直列に交換されています。
この抵抗値を微調整し、-5%以内まで追い込みました。これでEc1は正常になりました。

なお、Ec1はツェナーダイオードにより安定化しています。


次はEb電圧の確認です。
Eb=L(100V)のとき、チェックしてもメーターが振れません。
回路を追っていくと、このホロー抵抗がダミーロードになっていました。


抵抗を取り外してみると、抵抗値が無限大です。
サイズ的に代替品が見つからないため、何とか修理するしかないようです。
抵抗値と電力値だけであれば、部品購入できるのですが、大きくてケースに入りません。

スライド部分は正常なので、ホーローコーティングされた端分で断線していました。
慎重にホーローを削り、断線箇所を露出させたところです。



こんな感じになりました。細銅線を絡げて接触させ、半田付けで外れないようにしました。
ただ、これはチェック時のダミーに使用するだけで、gm測定時は未使用なので、
断線していても使えないことはないです。

Ec2は正常に+250Vが確認できたので、ツマミの位置と目盛りが合うように調整しました。


gmを測定するために、G1に入力する信号発振部と、プレートの出力信号を増幅するアンプ部が
一体になった基板です。

上部が増幅回路、下部が発振回路です。
ケミコンがすべて交換されていますが、それ以外はオリジナルのようです。
トランジスタはすべて2SB225です。各部チェックしましたが、正常に発振、増幅できています。


基板の右上にある小型トランスが、プレート負荷になっています。

6Z-P1を取り付けて波形を確認しました。
CH1がトランスの2次側波形、CH2が6Z-P1のG1波形(交流分)です。
G1には約9.1kHzの100mVppの信号が印加されています。

トランスの2次側出力は約30mVppですが、校正用ボリュームにより減衰した後、
アンプにより約4Vppまで増幅されます。
その後、亜酸化銅整流器により整流され、メーター回路に入ります。


EbはL/M/Hの段階切替ですが、非安定電源なのでリプルが大きいはずです。

6Z-P1での測定時のプレート電圧(Eb=L)の波形を見てみました。
約150Vのプレート電圧に対して、リプルが7.5Vppあります。信号は直接観測できません。
このリプルは負荷トランスで除去されるので、アンプの入力となる2次側には出てきません。
また、トランスの1次側は非常にインピーダンスが低いので、ほぼ電流モードに近いです。


このボリュームは説明書にも記載がなく、何をするのか分からなかったのですが、
緑青もあり何となく故障していそうです。

B型250kΩですが、設定されている抵抗値を測定すると、ほぼ0Ωに近い位置なので、明らかに異常です。
接続を追っていくと、SHORTチェック回路での、ネオンランプ点灯レベル調整用でした。



回路からすると、数十kΩで調整できるはずなので、手持ちのB50kΩの密閉型と交換しました。
軸長が長すぎるため、ナットで位置調整します。(軸が長いとカバーに当たるのです。)

真空管の電極間抵抗が100kΩ以下になったときにネオンランプが点灯するように調整すると、
F-Kチェックは約14kΩ、G1-各電極チェックは約29kΩとなりました。F-K用のネオンランプは
ちょっとへたっているようで、点灯が弱いで、抵抗値も小さくなってしまいます。



この部分は、Ebが「DIODE」と「REC」の設定時の回路になっています。
手前は空芯コイルですが、巻線抵抗として使われています。特に異常はありませんでした。
(奥に見える3kΩホロー抵抗はEb電圧チェック時の負荷用です。)


最終的な状態で6Z-P1を測定したところで、約1,900m mhoでした。(gmレンジは4m mho)

正確に校正するには、gmの分かっている真空管を、規定のバイアスで測定する必要があります。
また、Eb電圧が非安定なので、プレート電流によりEb電圧は変動しますが、
TRIODEであれば、Eb電圧は任意に設定できるため、正確にバイアスが印加できます。

一応、動作確認と調整ができましたが、時間あるときに校正してみるのが良さそうです。

2024年1月13日

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