山水 真空管ステレオアンプ“ファミリア SM-18”
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“ファミリア”と呼ばれる家庭用のステレオ総合アンプSM-18です。
動作不明の頂きもので、状態は良くありませんが、復活させてみることにしました。
このパワーアンプ回路は、有名なALTEC型の位相反転回路を採用しています。
使用真空管:6AQ8x4, 6BE6x2, 6BA6x4, 6BM8x4, 6GE12A
トランジスタ:2SB51x4
ダイオード :OA79(ゲルマニウム)x4, SE-0.5A(シリコン)x2, TC-0.2P(セレン)
<概略仕様>:
受信周波数 チャネル1:AM1(535〜1605kc)/SW(3.5〜10Mc)/FM(80〜108Mc)
チャネル2:AM2(535〜1605kc)
メインアンプ部 出力10W+10W、周波数特性 30c/s〜70kc、インピーダンス8/16/32Ω
プリアンプ部 PHONO(MAG/X'tal)/TAPE/MIC/AUX、トーンコントロール、ラウドネス
寸法 W438xD335xH134 mm
重量 14kg
1961年発売 定価¥36,900-
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裏側です。カバーが変形しており、錆も出ています。
左上がアンテナ端子、左下が入力RCA端子、右側がスピーカー端子です。
中央にある2つのボリュームは、2chAMラジオの出力レベル調整用です。
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カバーを取り外しました。かなり埃が堆積しており、腐食もあるようです。
ここまで埃が酷いということは、スイッチ類が心配です。
左がCH1の受信回路で、AM(BC)/SW/FMの3バンド、右がCH2の受信回路で
AM(BC)のみです。マジックアイが元気ならよいのですが。
CH1は、AMとFMのIFTが同一ケースに入っています。
弁当箱のようなものは、トランジスタによるプリアンプ回路です。
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シャーシ内部の全容です。かなりの部品点数と配線ですね。これを組み立てるのに
どれほどの時間がかかったのでしょか?プリアンプ回路こそプリント基板ですが、
それ以外はすべて空中配線ですから・・・
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先ずは、清掃をしようと思い、ラジオ部の顔であるガラス製のスケールを水洗いしました。
洗剤は使っていないのですが、結果はご覧のとおりです!!
見事に大失敗、白の目盛りが消えてしまいました!これには困りました。
絶対にガラス製スケールを水洗いしてはいけません。覆水盆に返らず。
途方に暮れていると、救いの神が現れました。JH4ABZ様が何とアクリル板でコピー品を
製作してくれました。結果は写真のとおり、上がアクリル板、下がガラスの原板です
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ここまで復元できれば立派なものです。感謝しかありません。
指示に従い、色々な写真を送り、版下を作成していただきました。
製作くらいはこちらで何とかと思いましたが、やはり素人には難しいですね。
最終的には完成品を送っていただくことになり、その間に修理を進めました。
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ここからが回路の修理です。電源回路からということで、電源スイッチを確認すると
抵抗値が7Ωくらいあります。やはり接触不良ですね。
スライドスイッチが電源スイッチというのも、心もとないです。
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スイッチを分解すると接点がご覧のとおりです。清掃して無事に復活しました。
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電源スイッチはフロントパネルに取り付けられているので、背面から配線を
引き回す必要があります。写真の上部に見えますが、ハム防止のため、ACラインは
金属シールドの中を通ってスイッチまで来ています。
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丸く黒いものがB電源用のシリコンダイオードSE-0.5Aで、倍電圧整流の非安定回路です。
その右にある黄土色の丸いものが、プリアンプ電源用のセレン整流器TC-0.2Pです。
最初は何だ、コレ!と思いましたが、仕様を確認して分かりました。
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電源トランスはSM-18専用品です。1次側のコンデンサは安全規格品に交換しておきます。
各部電圧は問題なく出ています。1次が100/117/240Vですから国内/海外兼用ですね。
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電源確認ができたので、アンプ回路から確認します。
6BM8プッシュプルのカソードバイアス抵抗が、2か所で焼けています。
2か所とも同じように焼けているので、6BM8に過電流が流れ続けたようです。
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バイパスコンも劣化しているので交換しました。抵抗400Ωは390Ωで代用します。
いつもながら、部品がとても小さくなってしまいます。
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予想したとおり、カップリングコンデンサが劣化して、グリッドに電圧が出ていました。
フィルムコンに交換しておきます。この状態では6BM8も劣化しているので交換ですね。
B電圧回路のブロックケミコンは、どうにか使用可能範囲でした。
6BM8はヤフオクで調達。gmよりもIpが揃っているものを探すのが一苦労でした。
これで、一応パワーアンプ回路は動作したのですが、ここから先はロータリースイッチ類を
清掃しないと、接点不良で故障個所が特定できません。
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先ずは、バンドセレクトスイッチです。SW/AM(normal)/AM(HiFi)/FM/AFC OFFを切換えます。
写真のように接点が黒くなっています。酸化だけでなく、埃が湿気で固まっているのもあり、
いつものアルコールを付けた綿棒でこすっても綺麗になりません。
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仕方がないので、ウェハを分解して、アルコール漬けにした後で綿棒で清掃しました。
かなり綺麗になったと思います。
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元に戻して配線します。これ、やってみると分かりますが、結構大変です。
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次が入力セレクタスイッチです。接点の黒さが分かると思います。簡単には取れないです。
ここでRADIO/PHONO/MIC/TAPE/AUXを選択します。
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このスイッチはウェハが4枚でした。同じように、地道に分解清掃します。
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清掃して組み立てた状態。ウェハの白色マークは、組み立て用の目印です。
各ウェハの順番と表裏の向きを間違えると、接点がバラバラになってしまいます。
油性ペイントでマーキングしてから、アルコールに浸けます。
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清掃後組み立てて、元通りに配線します。ここの難しいところは、右側から来る
RCA端子からの配線です。スパイラル状の金属シールドを通って来るのですが、
この金属シールドをシャーシに半田付けする必要があるのです。
いかんせん場所が狭く、配線が込み入っているので、半田ごてを入れるのが大変!
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3個目が、モードスイッチです。これが最後です。
STEREO(REVERSE/NORMAL)/MONORAL(CH1/CH2)を選択します。
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分解清掃で綺麗になりました。
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スイッチ3個のシャーシ裏側配線は、こんな感じになっています。
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こちらが、シャーシ表側の配線です。これでロータリースイッチ類が
正常となりました
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次は音量ボリュームですが、若干のガリがあるので分解してみました。
ラウドネス用のセンタータップのある2連ボリュームです。
製造年月が1961年5月となっています。
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後ろ側(CH2)はカバーが外れますが、手前側は軸のカシメを外さないと無理です。
万が一壊してしまうと代替えがありませんので、CH1側の清掃は諦めました。
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抵抗値を測定すると、最大2MΩ前後あります。500kΩAなので実に4倍近いです。
カーブを測定してみました。左がラウドネスOFF、右がラウドネスONです。
ラウドネスの周波数特性が変わってしまいますが、ここは妥協しました。
ただ、修理後に確認してみると、少しガリが残っているのと、音質変化に違和感が
あります。やはりセンタータップなしのVRに置き換え、ラウドネス機能無しとするのが
適切かなと思います。
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次はプリアンプ回路の修理です。シールドケースを外したところ。
左右で同じ基板が使われています。トランジスタはソニーの2SB51です。
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ケミコンは全滅なので、すべて交換します。低圧のケミコンは弱いですね。
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外部電源を使って、プリアンプ単体のTAPE入力でのゲインを測定しました。
周波数500Hzで約30dBとなりました。左がCH1、右がCH2です。
CH2の方が0.5dBほど小さいですが、許容範囲でしょう。
MIC入力に切り替えて測定すると、CH1=1.83Vpp、CH2=2.13Vppとなり、
チャネル間の差が1.3dBと大きいです。これはCH2側のNF抵抗(10kΩ)の劣化が原因で、
抵抗交換で差は0.1dBとなりました。
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PHONO入力におけるRIAAカーブを測定してみました。まあまあの特性です。
20Hzにピークがありますが、仕様が30Hz〜なので、これで正しいようです。
なお、PHONO入力は、マグネチック(MAG)とクリスタル(X-TAL)の切換えがあり、
クリスタルでは増幅度が27dB下がります。
プリアンプ回路の修理ができたので、実機の電源を接続して動作確認したところ
出力が極端に小さいです。電源部がおかしいようです。
RCフィルタ回路のブロックケミコンの劣化でした。耐圧25WVなので弱いようです。
回路が負電源なので、プラス側がコモン端子となっている特殊なものです。
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シャーシ内にケミコンを配置するのが大変なのと、見た目もあるので、
分解して内部に組み込みます。こんなに大きさが違います。技術の進歩ですね。
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底面がちょっと見た目が悪いですが、シャーシに取り付ければ見えない所です。
これで電源部もOKとなり、プリアンプ回路が完了です。
ようやくラジオ受信部の修理に取り掛かります。先ずはIFTの調整です。
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AM2側をIFジェネスコープで現状を確認したところです。マーカーは455kHz±10kHz。
左はSOFT(Normal)、右はHiFiです。帯域が狭い方を「SOFT」と呼んでいます。
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コアを調整するのですが、ペイントでがっちり固定されており回りません。
ネジ頭はつぶれてもよいので、ネジザウルスでも試してみましたがダメです。
再調整を考えないで製造したとしか思えませんね。
たぶんIFTを取り外して、頭部をアルコールに浸けておくしかないようです。
しかし、そこまでの元気がなく、今回は下側だけで諦めました。
下側だけ調整した結果が下の写真です。HiFi時が帯域10kHzに満たないので、
もう少し広帯域に調整したいところです。(マーカーは455kHz±10kHz)
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次はAM2側のIFT調整です。下の写真は初期状態です。かなりいびつです。
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こちらはIFTの上下コアが調整できました。但し、綺麗な特性にはできませんでした。
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一応IFTの調整ができたので、目盛り合わせとトラッキング調整をしてAMは完了。
但し、短波はどうしても目盛りずれが気になったので、OSC回路のPDと発振コイルに
コンデンサを追加しました。
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次はFM受信回路の調整です。モノラルなので、通常であれば難しくないのですが。。。。
IFT3段の調整結果は下の写真の様になりました。
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マーカーは±150kHz。帯域は±100kHzは確保できていますが、150kHzは欲しいです。
ここまでは順調だったのですが検波コイルで問題発生です。
検波コイルの1次側のコアが回らないのです。AMと同じ問題で、塗料で固着しています。
仕方がないので2次側だけ調整した結果が下の写真です。一応S次カーブです。
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マーカーが±150kHzですから、IFTの帯域特性がそのまま出ていますね。
写真では若干ゼロ点がずれていますが、実際は合っています。
1次側が調整できれば、もう少し良い特性になるはずです。
次にOSCのピストントリマで目盛合わせをした後に、トラッキング調整します。
トラッキングといっても、ここではバリコンのトリマコンの調整だけです。
FMの周波数は80MHz〜108MHzと輸出仕様なので、ワイドFMにはピッタリです。
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受信回路の最後はマジックアイ6GE12Aの確認です。
とても綺麗ですが、ヒーターが点灯しません。テスターでも導通なし!
これはダメかと諦めかけましたが、テスターでいじっていると時々針が振れます。
どうもピンの半田付け不良のようです。
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この不良は、たまに遭遇しますので注意が必要です。一旦半田を除去し再半田します。
ヒーター以外のピンも接触不良があったので、全ピン再半田しました。これでOK!
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綺麗に点灯しました。上がCH1用、下がCH2用のステレオ表示です。
ピンの接触不良が功を奏して、点灯時間が少なかったようです。
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このスライドスイッチは、FM/MPXの切換え用ですが、回路図では3回路使用しています。
ところが実機では4回路フルに使用しています。配線を追いかけると、下図の赤線部が
追加になっていました。
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SM-18のFM回路は、外部MPXアダプタを接続してステレオに対応するようになっています。
当時は、山水のMP-2、トリオのAD-5などが発売されていたようです。
SM-18/MPX出力==>MPXアダプタ==>SM-18/AUX1,2入力という接続になります。
上の回路図はマジックアイ部ですが、S3bは入力セレクタスイッチで、T:RADIO、X:AUX
となりますので、AUX選択時にはマジックアイがOFFとなってしまいます。
これを避けるために、MPX ON時にもマジックアイにB電源を供給するようにしたようです。
スイッチの配線が綺麗ではないので、オリジナル回路ではないものと推測します。
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スイッチ配線が雑過ぎるので、清掃を兼ねて分解しました。接点は綺麗になりました。
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今回交換した部品一式です。ここまで多いとは思っていませんでした。
真空管は6BM8x4、6AQ8x2を交換し、パイロットランプも一瞬点灯して
切れたので交換しました。
特に耐圧の低いケミコンと0.02μFを超えるオイルコンは全滅でした。
(ガラススケールは写っていません。)
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電気系の修理は完了しました。写真では、入出力端子部のシールド板を外しています。
B電源が非安定なので、モード切換え時の電圧変動が最少となるように、ホーロー型の
ダミー抵抗が使われています。何とも非効率な設計ですが、当時の技術では、これが
安価な設計だったのでしょう。
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修理しているうちに、そこそこ綺麗になりました。
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カバーはご覧のとおりなので、再塗装が必要ですが、時間のある時に挑戦してみます。
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2025年9月21日

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