Zenith TRANS-OCEANIC H-500
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10年程前にハードオフで入手したまま保管していた、Zenith社の真空管ポータブルスーパーTRANS-OCEANIC H-500を修理しました。
BCとSWの7バンドです。MODEL H-500はシャーシのタイプが何種類かありますが、これは5H40というタイプです。
更に、5H40にもバージョンが4種類くらいあり、バージョンにより回路が異なります。WEBで検索すると多くのドキュメントが
見つかりますが、どれがマッチしているのか実機の状態と見比べながらなので探すのに時間がかかりました。
ジャンク品で電源が入りませんが、真空管は揃っていたので、いつか修理しようと思いそのままになっていました。
コロナ禍で時間ができたので取り組んでみましたが、状態がよくないので、結構大変な修理となりました。
長期保管により、ケースにもカビが生えていました。
真空管構成:
1U4(RF), 1L6(Conv.), 1U4(IF), 1U5(Det/AF), 3V4(Power)
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裏蓋を開けたところです。バッテリはありません。
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シャーシを取り出し、フロントパネルも外しました。
左の底板が黒くなっているのは、電源回路が焼けた跡です。接着剤でコーティングしてありました。
シャーシ固定用ネジ穴も大きく破損しています。
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シャーシの前面です。中波帯と短波放送6バンドの7バンド切替です。
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電源のブロックコンデンサが交換されています。
また、オリジナルにはない、板金に取り付けた整流用ダイオードとホーロー抵抗が追加されています。
オリジナルはセレン整流器なので、ダイオードだと電圧ドロップが小さすぎるために抵抗で電圧補正が必要となります。
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上から見ると、こんな感じです。
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バンド切替スイッチとコイルパック部分です。断線はないようです。
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シャーシ内部です。茶色の部品はペーパーコンデンサです。外観では問題なさそうですが、容量抜けで全数交換が必要です。
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電源部のシャーシ内部です。
左側面にネジ止めされているのはヒーター電圧生成用の電圧ドロップ用抵抗で、950Ω×2ですが、
片側が破損しているため代用の抵抗が追加されています。黒い3WのL型抵抗です。
オリジナルのセレン整流器は、スピーカ側のシャーシに付いていたはずです(ネジ穴あり)。
中央にあるスイッチは、ACとバッテリを切り替えるスイッチですが、結構黒くなっています。
周囲がすすけていますので、抵抗が焼けた影響のようです。
ブロックコンデンサが交換してありますが、容量と数が足りないので、個別に追加したようです。
ただ、空中配線なのでぶらぶらしています。修理は、この電源周りから始めないと前に進みません。
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スイッチを取り外しました。シャーシの上からACプラグを差し込むと、スライドスイッチがバッテリに切り替わるようになっています。
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カバーを外すと、銀メッキの接点がかなり酸化しています。
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このくらい清掃すればOKでしょう。
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カラーコードの付いたペーパーコンデンサですが、亀裂がはいっています。これは定格0.022μF, 400V品です。全数、取り外しました。
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参考までに割ってみました。カラカラで電解物質がなくなっています。
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取り外したペーパーコンデンサとチューブラ型ケミコンです。
ポータブルということで、全ての部品のリード線が太い上に、からげ配線なので、ちょっとの振動ではびくともしないように
設計されています。ソリッド抵抗のリード線も必要以上に太く感じます。しかし、それによって部品の取り外しがとっても大変で、
修理泣かせになっています。
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出力管3V4のソケットですが、端子が折れていて、リード線をピンの板ばねに直接はんだ付けしています。
一応動作はするでしょうが、嫌らしいのでソケットを交換することにします。
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取り外したソケットです。2か所の端子が折れています。交換用のソケットはベーク品をヤフオクで購入しました。
ショップで販売されているモールドソケットだとシャーシの穴にはまらず、ねじ止めができないので使えません。
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修理後の電源部周りです。
ダイオードと抵抗はラグ端子に取り付けています。ケミコンもラグ端子を追加して固定します。
ダイオードは手持ちのシリコンダイオードを使い、電圧ドロップ用には5W酸金抵抗を使いました。
2個パラになっているのは、抵抗値を調整したためです。
オリジナルはAC117Vで設計されているので、AC100V用に抵抗値を調整する必要があります。
AC100Vを直接整流して、直流の+B電圧(約+90V)と電池管のヒーター電圧8.4V/50mAを生成するので何とも効率の悪い方式です。
おかげで、この抵抗はかなり熱くなります。
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周波数変換用の1L6のヒーター電圧が寿命に敏感なので、1L6のヒーター電圧をモニターしながら、1.4Vを越えないように
抵抗値の組み合わせを変えていきます。最終的には、ダイオードの直後は130Ω(150Ωと1kΩ)、電圧ドロップ用は820Ω×2となりました。
オリジナルとはかなり抵抗値が違っていますが、100Vでの机上計算とよく一致しました。
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抵抗の電力計算上はこのままでもマージンがあるのですが、シャーシの中で抵抗がちんちんに熱くなっているのは気持ちが悪く、
ケースが木製なのも気になります。
そこで、下の写真のような放熱用シリコーンで接着しシャーシに放熱させます。これで抵抗を手で触っても問題ないレベルになりました。
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電気周りの修理が完了したので、調整にかかりましたが、IFTの調整が独特でした。
上コアと下コアを調整しますが、シャーシ側には穴がありません。どうやって下側のコアを調整するのかと不思議でしたが、
英文の解説書を読み解いて分かりました。上下とも上から回すのですね!
これは上側のコアを回しているところです。
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次は下側のコアですが、上側のコアは貫通タイプになっているので、下側のコアを回すには、そのまま調整ドライバを
下まで移動させて回します。これは調整用のドライバがないとできません。
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目盛合わせとトラッキング調整をしましたが、16mバンドだけが、どうしても周波数調整ができません。
局発コイルのコアを抜いても周波数が低いのです。(写真中央)
バリコンは他のバンドと共通ですし、パディング・コンデンサもこのバンド以外で使っているので、コイルのインダクタンスが
大きくなっていることになります。巻線は正常に見えるので原因不明です。仕方がないので、真鍮の破片を入れてインダクタンスを下げました。
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一通り電気関係が完了したので、ケースの作業に取りかかります。
このシリーズのラジオは、フロントカバーにループアンテナが着脱できるようになっていますが、本体からループアンテナまでの
どこかで断線していることが分かりました。
ヒンジ部が怪しいので、トップカバーを外したところです。右側の丸穴から左右に電線が入っています。
金具を経由してフロントカバーに接続されています。
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左側が見事に腐食により断線しています。
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断線を修理して、最終的な導通チェックです。
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フロントカバーのロック金具の腐食が酷いので外してみました。特にカバー側の腐食が進んでいます。
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分解してみましたが、内部は問題ないようです。
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ところが、錆を除去しながら綺麗にしていると、アームが折れてしまいました。
これは困りました。溶接屋さんにも相談してみましたが、この溶接は無理だろうとの回答でした。
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無謀にも接着できないかと思い、金属用の接着剤を調べてやってみましたが、さすがに接着剤だけでは無理がありました。
そこで、銅パイプを適当な長さに切断して切り開き、つなぎの補助金具を作ってみました。
これを金属接着剤で付けてみたところ、何とか満足のいく強度で修理できました。
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ケースに取り付けたところです。少し補強用の金具が見えますが、実用上はOKです。
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これで修理完了と思って、シャーシを組み入れようとしたのですが、ついていた取付ネジ(写真の左側)が途中までしか
ねじ込めません。また、片方はネジがありませんでした。
アメリカのラジオなので、当然インチネジだろうと思い、ホームセンターに持っていって、同じネジを買おうとしたのですが、
何とこれは旧JISネジでした。修理時にインチネジが無かったのでしょうね。残念ながらホームセンターでは、このサイズの
インチネジがないので、通販で調達しました。高いです!1個300円以上しました!
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無事に修理が終わり、シャーシを組み込んだところです。
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これで長期戦が、やっと終わりました。
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