沖電気工業:AM/FMステレオラジオ FR-8010
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珍しいラジオの修理依頼を受けました。症状は電源が入らないということでした。
沖電気工業が1960年代前半に発売したAM/FM2バンドのステレオラジオです。
1963年の沖電気時報にFR-8011の製品紹介がありましたので、1963年頃の製品ではないかと推測できます。
日本ではFMのステレオ実験放送が1963年に開始されたので、まさに開始当時のラジオということになります。
但し、本機は北米向け仕様となっているので、国内と同時開発されたのか定かではありません。
FMの周波数帯は88MHz〜108MHzとなっています。また、外観が国内仕様とは少し違うところがあるようです。
6BM8によるステレオアンプ回路が組み込まれているため、外部入力を接続すれば立派なステレオアンプとして動作します。
真空管構成:
チューナー部 6AQ8, 6BE6, 6BA6x2, 6AU6
FM MPX部 12AT7x2
ステレオアンプ部 12AU7, 6BM8x2
電源部 6CA4
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左右のスピーカーが観音扉のようになっていてます。写真はスピーカーを閉じたところです。
サランネットが張られていますが、裏面になるため穴は開いていません。開いた状態は、一番下に写真があります。
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上から見るとよく分かります。
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フロントパネルです。
左側は、上から音質、バランス、ラウドネス(音量)
右側は、上からチューニング、入力切選択、モード切替(電源)
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裏面パネルです。
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銘板です。
定格電圧は117V/60Hzですが、一般家庭で昇圧トランスを使うのは面倒なので、100V/50Hzで調整しました。
多少特性は変りますが、実用上は問題ないでしょう。
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裏面のアンテナ端子、入出力端子です。
左のスライドスイッチは、ステレオマルチプレックスのON/OFFスイッチです。OUT側でMPXがOFFとなり常にモノラルとなり、
IN側でステレオ/モノラルが自動で切り替わります。リレーで自動切り替えとなっています。
アンテナ端子のAM側に接続されている線は、ロッドアンテナに繋がっています。
アンテナ端子の下にあるボリュームは、MPX回路の左右バランスを調整するものです。
ピンジャックは、ステレオの外部入力と外部スピーカー出力になっています。
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裏板です。
回路図が張り付けられています。これが無いと修理は難しいというか、できなかったと思います。
回路図さえあれば何とかなります。
電源コードは安全設計が図られており、コネクタが裏板に取り付けられているため、裏板を外すと電源コードも外れる設計と
なっています。但し、国内仕様の写真を見ると、シャーシから直出しになっているので、安全規格上の問題から、国内と輸出で
仕様を変えたのかもしれません。
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左側から見た写真です。
ピンジャック(矢印部分)が見えるため、最初は外部スピーカー端子と接続して使うものと思っていましたが、
内部を見てビックリしました。アンプの出力は、何と内部で上下のヒンジに接続されているのです。
(上のヒンジがプラス、下のヒンジがマイナス)
ヒンジが接続端子代わりになっているので、ピンジャックを接続しなくても音が出るようになっています。
よて、個別に外部スピーカーを接続すると、並列接続となってしまいます。
たぶん、ヒンジが接触不良になってしまったときに、代替手段としてピンプラグコードで接続できるようにしたのではないかと
推測しました。
※後日ネット検索すると、ナショナルのRE-777Nという機種が同様にヒンジで左右のスピーカーを接続していることが
分かりました。RE-777Nはスピーカーが上に折りたたみ出来ます。 当時はよく使われていた方法なのかもしれません。
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スピーカーBOXの裏板を外したところです。スピーカーのリード線がヒンジのネジに接続されています。
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ピンジャック端子も並列に接続されています。写真では見にくいですが、接着剤がヒンジのマイナス端子にも流れ込み、
接触不良を起こしていました。
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内部の全体写真です。配置としては、左上がAM/FMチューナー回路、左がステレオアンプ回路、中央下がマルチプレックス回路、
中央手前が電源回路となっています。
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取り出したシャーシ前面です。
中央のFMチューナーパックは、ゴムブッシュで防振対応されています。
目盛板の下にあるパイロットランプは、緑がモノラル、赤がステレオ表示用。
右上の丸穴は、電源用のパイロットランプが取り付くところですが、輸出用は削除されています(回路図と異なる)。
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FMフロントエンドは、アルプスのFMチューナーパックが使われており、型式が「BFB1305A」だと思われます。
資料を調べたところ、BFタイプというFMチューナーがあり、可変L形の単球セルフ・コンバーターだということが分かりました。
6AQ8を使ったものがBFBとなっているようです。
AM用の親子バリコンと連動するように紐かけされていて、内部でコアが移動します。TPはコンバータ管のグリッドに抵抗を介して
接続されているようで、調整時の信号入力のための端子だと分かりました。
LoscとCoscで目盛合わせ、1RYと2RYでIFトランスの調整を行います。1次と2次が離れているということは、
周波数特性が単峰性ではなさそうです。CRFはトラッキング用なのでしょうが、詳細が不明です。
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IF回路です。
上段がAM用IF回路、下段がFM用IF回路、左端はFM用検波トランス(黄)です。
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FM用マルチプレックス(MPX)回路です。
19kHzのキャリアを2逓倍して38kHzのサブキャリアを生成し、ステレオ再生のリレー切替用ドライブ管の入力にも使っています。
パイロットランプもリレーで切り替わります。
下に並んでいる、トランス、コイル類は、マルチプレックス用信号のフィルタやトランス類です。
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アンプと電源回路部分です。
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アンプのCR類を実装している部分です。
平ラグ端子に整然と取り付けられています。コンデンサの劣化は少なく、このまま使用できます。
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電源回路板金をシャーシに固定しているネジが腐食していてネジ頭が欠けてしまいました。
こうなるとドリルで貫通させて、ボルト締めにするしかないです。
左隣のネジ穴は国内仕様で使うのかもしれません。
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ここから本格的に、電気関係の修理に取り掛かります。電源が入らない原因は、電源スイッチの破損でした。
モードスイッチの電源スイッチ部分が完全に脱落しています。ハトメが劣化して取れてしまったようです。
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スイッチ部分を取り外して、M2のネジとナットで固定します。これで電源スイッチは正常に動作するようになりました。
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電源は入るようになりましたが、ハム音がひどいです。
オシロスコープでドライブ管の+B電源波形を確認すると、リプル電圧が11Vppもあります。
また、ブロック電解コンデンサが次第に暖かくなってきたので取り外しました。ELNAのブロックコンで、300V/20μF x 4です。
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ブロックコンを取り外して容量を測定すると、4つとも0.4μFくらいしかなく、完全に容量抜けです。
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分解すると、からからになっていました。
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20μFx2はパラ接続になっているため、47μF+20μ+20μFの3個のケミコンを組み込みます。
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元通りに組立。これで、ハムは気にならないレベルになりました。
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外部入力から信号を入ても右側から音が出ません。信号を追いかけていくと、アンプの入力選択スイッチの接触不良でした。
写真の赤丸部分をよく見ると、接点バネが浮いているように見えます。電源スイッチと同様に、原因はハトメの劣化でした。
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ロータリースイッチの接点バネ。腐食ではないので、もともと強度不足だったのではないかと疑ってしまいます。
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ネットで検索すると、ほぼ近い形状のスイッチが見つかりました。4回路3接点のロータリースイッチです。
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シャーシに取り付けたところです。これでスイッチは完了!と思ったのですが、問題が残っていました。
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位置決め穴の角度がちょっとずれていました。
通常、ローレットツマミは、ある程度自由にツマミの角度を調整できますが、本機はツマミが特殊で、下の写真にあるように
中に仕切り板が入っており、取り付け角度が固定されてしまいます。仕方がないので、ツマミとパネルの印刷が一致するように
穴を追加しました。鉄板の穴開けは嫌らしいです。シャフトも若干長いのでやすりで削っておきます。
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音質調整用のボリュームで、Cカーブ500kΩの2連です。ガリがあるのですが、ガリだけでなく途中で短絡するような
不思議な動きです。分解しないと分からないので取り外しました。
シルバードマイカの500pFが付いていますが、何となく交換した跡があります。
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先ずは奥側を分解し、無水エタノールで清掃しました。アナログテスターで測定すると、スムーズに変化するようになりました。
デジタルテスターだと、微妙な変化が分からないので、アナログがよいです。
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次に手前側を分解して、ビックリしました。摺動子にリード線の切れ端が挟まっています。不思議な挙動の原因はこれでした。
マイカが交換された後があるので、その切れ端が入り込んだのに気が付かずに、そのままにされてしまったようです。
その時は、偶然、抵抗体に接触しなかったのかもしれません。こちらも清掃すると、変化がスムーズになりました。
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左右バランス用のボリュームですが、ややガリがあったので、分解清掃しましたが、完全にはガリがなくなりませんでした。
このボリュームは、回路図上は「F 1MΩ」となっているので、Fカーブか?と思ったのですが現物はBカーブでした。
当然ですが、Bカーブだとボリュームの両端でしか音量の変化が感じられません。Bカーブでも3Bや4BといったWカーブに近い
カーブでないとスムーズに変化できないのですが、「Fカーブ」がそうなのかは解明できませんでした。
1Mオームの3BカーブやWカーブは入手できません。あまり使うことはないので、今回はこのままとしました。
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AMを調整しようとアンテナ端子に信号を接続しても信号が大きくなりません。
分かりにくいですが、バーアンテナの1次側が断線していました。
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やわらかい線材をつぎ足して補修しました。これで、AMの調整は問題なく完了できました。
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今回、一番時間がかかり悩んだのが、FMのIF調整です。
AMであれば中間周波数で信号が最大になるように調整すればよいのですが、FMは帯域が広いので、単純に最大になるように
調整する訳にはいきません。何回もやり直しましたが、特に、FMチューナーパックのTP端子から信号を注入すればよい
というのが分かるまでは、試行錯誤が大変でした。
最終的には、以前に入手したトリオのIF GENESCOPEが活躍しました。
3点のマーカーは、10.7MHz±0.15MHzを示しています。あくまでも調整用なので、縦軸のスケールは絶対値ではありません。
できれば±75kHzはフラットにしつつ左右対称の特性にしないと検波出力が歪みます。
何とか頑張ったのですが、ここまで追い込むのが限界でした。これ以上は、FMチューナーパックを分解してみないと分かりませんが、
そこまでやると修復が困難になるので止めておきます。
※後日の資料によると、3dB帯域幅で270kHzのような記載もありましたが、とてもその様になるとは思えませんでした。
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1kHzでFMを50kHz変調したときの検波出力です。これ以上は上下が非対称となり歪が目立ち始めます。
検波回路までの調整については、ラジオ工房の掲示板で多くの情報を頂きました。ありがとうございました。
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手持ちのSGはステレオ信号を発生できないため、MPXの調整用にAMAZONからFMステレオ送信モジュールを調達しました。
PLL方式でとても便利です。こういうものが1,500円以下で手に入るので、便利な時代になったものです。
電源はUSB経由で、LINE入力はステレオピンジャックになっています。
低周波発信器の出力をLINEに入力すれば、左右のステレオ信号を発生できます。
中国製なので、例によって取説はありません。AMAZONに長々とテキストで書かれていますが、機械翻訳なので意味がおかしいです。
英語の方が余程ましです。
ステレオのセパレーション特性が分かりませんが、DSPなので問題ないでしょう。但し、出力が大きいので、アンテナを付けてはいけません。
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マルチプレックス回路の調整を行います。トランスやコアは、ほとんどずれがありませんでした。
写真は、左側に1kHzのFM信号を受信したときのMPX出力です。上が左側、下が右側で、バランス調整した状態です。
サブキャリアの38kHzの漏れが非常に大きいです。RCローパスフィルタで除去しているのですが、デエンファシス兼用なので
減衰特性が悪いです。定数変更すると位相特性も変わるので止めました。
アンプで減衰し、スピーカーからは出ない周波数ですが、とても気持ち悪いです。
ここで問題発覚。
FM送信モジュールで、右、左と送信してみると、回路図上のL側とR側が反対です。
内部配線も、L側が赤色、R側が白色の配線となっています。通常は逆です。
どうも、一度修理したときに、左右の配線を間違えてしまったようです。正常な配線色となるように、配線を修正しました。
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FM回路を調整後、ステレオ信号を受信すると赤ランプが点灯します。ワイドFMが受信できますが、ステレオだとどうしてもS/Nが
劣化します。FM用のフィーダーアンテナを接続し、向きを調整すれば実用的には使えるレベルになりました。
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最後に組み上げて、念のためスピーカーのピンジャック端子を確認すると右側のピンプラグが差し込めません。
よく見ると、半田がピンジャックの内部まで入り込んでいます。これでは、途中までしか差し込めません。余分な半田を除去しました。
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修理完了し、FMステレオ(ワイドFM)を受信しているところ。
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全体の外観です。ラジオというよりも、ステレオシステムですね!大切に使ってください。
【修理後記】
当時の沖電気時報を調査していると、FMステレオ受信機について総合的に論じている記事を見つけることができました。
それによると、FR-8010型、FR-8011型の他に、FMチューナーのFR-8007、高級機種としてFR-8013型、FR-8022型も試作した
とのことです。FR-8010は下位の普及型ということで、シンプルな設計になっているものと思われます。
各ブロックの回路説明もされており、大変参考になりました。
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