ビクター 8H-3D

日本ビクターの8石3バンドトランジスターラジオです。
MW : 535〜1605kc
SW1: 3.9〜10.5Mc/SW2:11.6〜22Mc
トランジスタ構成:2SA70(MIX)/2SA69(OSC)/2SA101x2(IF)/2SB173(AF)/2SB175(AF)/2SB172x2(AMP)

木製ケースの大型ラジオで、1962年発売です。当時ビクターは、ベリ・シリーズとして海外放送局を受信し
ベリカードを収集するためのラジオを発売しました。これは最下位モデルのようです。
1970年代のBCLブーム前のBCL用入門ラジオと言えます。上位モデルに11A-7D(7バンド)、8H-4D(4バンド)が
あります。SW1受信時はバーアンテナと上部のループアンテナを併用、SW2受信時はループアンテナのみを
使用するようになっています。ループアンテナは前面に折りたためます。ファインチューニングがないので、
SW2での選局には難があります。
入手時は、電池液漏れによる電池ケース腐食、ボリュームのガリがあるものの一応動作します。
但し、どうも全バンドで感度が低く、かつ時間が経つと感度が上がってきます。結果的にIF増幅のトランジスタ不良でした。
大きさWxHxD=約30x16x10cm(取っ手、アンテナ含まず)。アンテナを立てると高さ31cmになります。

(2008年12月入手)



入手時の外観。ループアンテナは緑青がかなりあります。



入手時に裏蓋を開いたときの内部です。乾電池が入ったままで、液漏れによる腐食が酷そうです。
単一乾電池4本なので、総重量は結構あります。
右上のスライドスイッチは音質切り替え用です。LOWにすると極端に高域が落ちます。




電池を外したところ。案の定、電極がかなり腐食しています。





裏蓋内側の銘板です。




電池ボックスの取付ネジ2本が完全に腐食しています。これを外さないと電源のリード線が外せません。
こういう場合は、最終手段としてネジ頭をドリルでざぐり、頭を切断するするしか方法がありません。



ネジ頭を切断し、電池ボックスを取り外しました。電池ボックス取付金具部分が錆だらけです。
これだけ腐食が酷いと基板側にも波及する場合が多いのですが、大型ケースで空間が大きいため基板は無事でした。


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基板を取り出したところ。上部に左右から伸びている金具は、ループアンテナと基板との接続用です。



内部基板は強固なシャーシにしっかりと固定されています。




RF回路部。バンド切替用ロータリースイッチの裏側に位置し、ANTとOSCのトリマが並んでいます。左からMW, SW2, SW1用です。


中央部に見えるのが、交換した後のIF初段増幅用2SA101です。何故か2SA101はまだ市場に出回っていました。
左のやや大きいトランジスタは周波数変換用の2SA70です。
ダイオード0A70は検波用と間違えやすいですが、大信号入力時にIF増幅をバイパスするためのものです。




左が故障して取り外した2SA101、右が交換用の2SA101です。松下製です。
捺印"78"とあるのは1978年製造でしょうか?
ベース電圧が-0.3V程度のところ、-0.1Vしかありません。よって殆どコレクタ電流が流れず、正常に増幅できていませんでした。
時間の経過と共に僅かにベース電位が回復しますが、正常値までは行きません。この石を交換し、俄然感度が上がりました。




当時のビクターは、「IF増幅+検波回路」を1つのシールドケースに収納したIFモジュールを採用していたようです。
左下の黒いIFTがそれです。一見複同調IFTにも思えますが、前後の回路を調査するとトランジスタと検波回路が
入っていることが分かります。通常のIFTよりも背が高いです。
なお、内部回路は調査していませんが、ラジオ工房掲示板にて類似の資料をいただきました。
必要な方はメールにて問い合わせ下さい。



ボリュームを絞っても音量がゼロになりません。ボリュームの残留抵抗が40〜50Ωあります。
それほど大きくはないのですが、ローカル局が普通に聞こえる程度なので修理が必要です。ガリがあるので分解してみました。
無水エタノールで清掃したところ、ガリは解消されましたが、清掃し過ぎで抵抗値が5kΩから10kΩになってしまいました。
おまけに残量抵抗も100Ωになってしまったので修理をあきらめ、交換することにしました。清掃には注意が必要です。




右がオリジナルのVR。“37.06A”の捺印があるので、昭和37年製造の部品です。左が交換用のVR。
例によってシャフトが短いです。




いつもならアルミパイプで延長するのですが、ツマミが長いので簡単にはできません。
ツマミをカットすれば可能ですが、このままでも取り付きそうなので延長はしませんでした。




短波用ループアンテナの取付部。アンテナを上に立てると確実に接触するような構造になっているのですが、
ループ全体の抵抗を測定すると50Ω前後あります。接触不良です。これではアンテナのQが低下し感度がなくなります。




アンテナ取付金具を分解し、錆、汚れを落としました。結果として0.1Ω以下になりました。(左右2ヶ所)




電池ボックス端子です。腐食が酷いです。本来ならニッケルメッキするのでしょうが、今回は半田メッキで良しとします。
スプリング部は新品の電池ボックスから移植するのもよいでしょう。




ハンドル固定部のカバーを外したところです。右下のネジにスペーサーをかませて廻転が90度で止まるようにな設計ですが、
何故かスペーサーが片側しかありませんでした。そのためネジが直接ハンドルにぶつかり変形しています。
適当なスペーサーがなかったので、ナットを丸く削って代用してみました。




裏蓋を開閉するツマミは革製ですが、切れてしまっています。近くの手芸屋さんから皮の切れ端を手に入れて修理しました。
高級感があります。



全ての修復が終わり、組み上げたところです。裏蓋のゴムバンドの用途が不明ですが、取説か何かの資料をはさんでおくのでしょう。
電池を入れるスペースはありませんので。(白いものは、アルミの錆です。)
最後にIF調整、単一調整を行って完了です。RF増幅段のないシングルスーパーなので、特にSW2はイメージに注意しないといけません。




メーカに資料の問い合わせをしましたが、当時のものは残っていないということで、自力で回路図を起こしました。
裏面に基板のパターンを転記し、表面に部品を書いていきます。片面基板なので割りと楽ですが、それでも何回か確認しないと
間違う場合が多いです。特にロータリースイッチの配線調査は苦労します。
左のスケッチは、周波数変換からIF増幅の部分です。図ではパターンが見えませんが、実際には透けて見えます。

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