ナショナル 真空管ポータブルラジオ 4W-260

真空管ポータブルラジオCW-110を修理するために部品取りとして購入したものです。
ケースは破損しており、動作未確認ということで、ジャンクとして出品されていました。
AC電源コードと周波数変換管1AB6/DK-96を抜き取りました。
このまま、ジャンク箱に入れようかと思ったのですが、それにしては可愛そうだと思い直し
幸いにも、1AB6が追加入手できましたので、修理してみることにしました。
確かに電源を入れても音が出ません。

真空管構成:1AB6/DK-96(CONV), 1AJ4/DF-96(IF), 1AH5/DAF-96(DET), 3C4/DL-96(OUT)
発売日:1955年(昭和30年)
入手日:2024年7月


右側のケースが大きく欠けています。落下させたのでしょう。
ハンドルが取れたので、接着して修理したようです。


裏側です。他の機種と同様に、AC/DCとBATTの切替スイッチと、コードの差し込み口があります。



リアパネルを外したところ。落下してケースが破損している所のバーアンテナも一部欠けていますが、
実用上は問題ありません。固定ブッシュは完全に溶けています。
一見、動作するように見えますが・・・


リアパネルには、仕様、回路図が貼り付けられています。


フロントパネルを外したところ。ダイアルは減速機構がなく、直接バリコンを回す構造。


先ずは、AC100V時のフィラメント回路から修理します。ACラインのオイルコンは安全規格品に、
ケミコンも容量抜けしているので交換しました。最近のケミコンは本当に小さくなりました。


当然ブロックケミコンも劣化していると思ったのですが、容量、損失、漏れ電流とも使用可能な
レベルになっていました。珍しいです。せっかくなので、このまま使います。
電池での使用が多かったのかもしれませんね。


真空管はすべて正常で、フィラメント電圧もきちんと出ています。


外部DC電源と乾電池で低周波回路に信号を入れても音声が出ません。
原因は出力トランスの1次側の断線でした。念のため、それ以外に異常がないか、あり合わせの
出力トランスを仮接続して、音出し試験です。ボリュームのガリがありますが、それ以外は
一応、ラジオが受信できることが確認できました。


断線した出力トランスですが、如何せんサイズが小さいので、市販のトランスではケース内に
組み込むことができません。
やりたくなかったのですが、巻き直す以外に選択肢はないようです。


コア(鉄心)は、EIコアを上下からサンドイッチ状に入れ込む形です。自然とギャップが取れます。



2次巻線はΦ0.55mmのエナメル線で58回でした。1次巻線はΦ0.1mmのエナメル線で約2,300回でした。
出力管が3C4なので最適負荷インピーダンスは15kΩ、スピーカーは実測10Ωでした。
よって、インピーダンスの計算上は巻き数比が約39なので、1次側は58X39=2,262回となり、
約2,300回巻けばOKとなります。


素人巻きなので、当然1次側はがら巻きです。巻き枠には「つば」がないので、巻いていくと両端の形が
崩れてくるのが最大の問題です。500回くらい巻いたら元々の絶縁紙を巻いて、全体を高周波ワニスで
固めて、少し乾いたら巻き重ねることを繰り返した結果が写真のような状態です。簡易巻線機のカウンタで
2,300回まで巻き、最後にアセテートテープで整形して1次側は完了です。
仕上がり径0.1mmということは、導体の太さは0.08mmかもしれませんので、とても切れやすいです。
この上に2次巻線を巻いて完成です。


鉄心を組立てて、外見上は元どおりになりました。


2次側に10Ωの抵抗を接続して、1次側インピーダンスを測定すると15.3kΩ@1kHzでした。
こんなもんでしょうね。


出力トランスが修理できたので、ボリュームのがりを修理します。スイッチが2極単投なので
復活出来ないと代替が難しいです。分解し、抵抗体と摺動子を清掃して一応OKとなりました。


バリコンのゴムブッシュが、ご覧のとおり完全に溶けているため、バリコンが傾いています。
ダイヤルがスムースに回転できない原因になっています。


綺麗に清掃し、手持ちのゴムブッシュを取り付けました。これでダイヤル回転も問題ありません。



結局、出力トランス以外に交換した部品はこの3点でした。


IFジェネレータでIFT調整しますが、調整前はこのように、かなりずれています。 マーカーは455kHz±10kHzです。


調整のため、ケースの目盛りを原寸大にコピーして取り付けます。
この後、目盛合わせとトラッキング調整をして完了ですが、高域での目盛りが完全には合いません。
1500kHz以上を合わせ込むには、OSCの直列コンデンサを微調整する必要がありますが、そこまで
こだわる必要もないと思い、オリジナルのままとしました。


最終状態の内部全体です。


ケースの破損はそのままですが、外側を清掃して、それなりに綺麗になりました。

2024年8月16日
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