コロムビア 2バンドHiFiラジオ1505

大型のコロムビア製2バンドHiFiラジオが修理にやってきました。1957年(昭和32年)に発売され、
当時の正価で23,800円です。小学校教員の月給が約8,000円の時代ですから、給与3か月分の最高級機種です。
大きな特徴は、高音専用のコンデンサ・スピーカーを搭載している点です。2ウェイスピーカーのラジオは多いですが、
コンデンサ式は大変珍しいです。
また、IF帯域切替やNF回路など、HiFiにこだわった回路設計になっています。ピアノタイプの押しボタンスイッチで、
バンドやモードを切り替えます。当時はクリスタル式レコードプレーヤーを繋いで、よい音で聞いていたものと思います。

真空管構成:
6BE6(Conv.), 6BA6(IF), 6AV6(Det./AF), 6AQ5(Power), 5M-K9(Rect.), 6Z-E1(Tune)

高さ40cm、幅55cm、奥行25cm、重さ10.5kg


裏側です。


裏板に長方形の穴が開いていて、紙のカバーが取り付けられています。
「回転アンテナのカバー組立方法」と記載があり、内蔵のバーアンテナを回転したときに
裏板からはみ出てしまうため、それをカバーする箱です。折りたたまれているので、
設置時に箱を組立てるようになっています。


シャーシの取り出し方が貼り付けられています。実際にシャーシを取り出すときに、このラベルがないと、かなり苦労します。


底のカバーを取り外すと、押しボタンスイッチのレバーが見えます。これによって、シャーシを傾けながら
引き出せるようになっています。


裏板を取り外したところです。

6.5インチのパーマネント・ダイナミック・スピーカーが2個鎮座していますが、その間にある長方形のものが、
コンデンサ・スピーカーです。真空管ラジオでは初めてみました。
右側面にある端子は、スピーカーの中継端子で、ここから外部スピーカーを接続することも可能です。


ラベルに従って、シャーシを取り出しました。


シャーシの裏側です。

真空管が3本ありません。6AV6、6AQ5、5M-K9が故障したのか分かりませんが、先ずは、この3本を調達し、
外部スピーカーで通電してみました。電源は問題なく入りますが、AM放送が受信できません。
HiFiボタンを押すと受信はできるようになったため、全てのスイッチ類は接触不良と思った方がよさそうです。
ボリュームはガリ音が酷いです。トーンコントロールも効いており、基本的な動作はできていることが確認できました。

但し、短波が受信できません。どこかが故障しているか、間違っているようです。
中波用のバーアンテナは、フロントのツマミで回転できるようになっていますが、糸掛けがずれていて、
正しい回転角度になっていません。


シャーシの内部です。埃が結構溜まっています。バリコンのゴムブッシュが溶けて、シャーシ内部まで入り込んでいます。
押しボタンスイッチは、1個1個ロータリースイッチになっていて、埃で接触不良になっています。


ロータリースイッチを1個づつ外して、接点を清掃する必要があります。結構手間がかかる作業です。



シャーシを上から見たところです。



バーアンテナ部分です。過去に修理したような跡がありますが、線材が硬くなっているので、このまま回転すると、
はんだ付け部が断線してしまいます。糸掛けも含めて、ここは分解して再配線が必要です。


修理はここから取り掛かりました。
修理後の状態です。構造的に、よく考えたものだと感心してしまいます。


ダイヤルを取り外し、シャーシを前から見たところです。バリコンのゴムブッシュが溶けて、完全に傾いています。
押しボタンスイッチのレバー機構は結構複雑です。ネジが多く、相当の部品点数です。
可動部分はグリスアップでスムーズに動くようになりました。


バリコンを横から見たところです。

このバリコンは、ちょっと変わっていて、3連バリコンなのですが、右端が中波・短波共通のアンテナコイル同調用、
真ん中が短波用の局発、左端が中波用の局発となっています。局発用が各々専用の容量となっているので、
パディング調整が不要です。

バリコンの配線チェックで、短波が受信できない原因が分かりました。スイッチへの配線ミスにより、短波に切り替えても
同調用のバリコンが短波側に切り替わっていませんでいた。以前の修理で間違えたようです。


バリコン取付台ですが、ゴムブッシュは全交換します。



バリコンの固定4か所の修理は問題なかったのですが、シャーシ固定部の1か所は、金具が割れて使いものになりません。
ネットで検索すると、「電気ハトメ」が同等品であることが分かりました。穴径の合うものを調達し、
長さはやすりで調整する必要があります。


ブロックケミコンは、分解して内部を取り出し、新しいケミコンを組み込みます。

50μF/350V ⇒47μF/350V
20μF/350V ⇒22μF/350V
5μF/350V ⇒10μF/250V


修理後のブロックケミコンです。
実は、漏れ電流を測定するとDC200Vで約40μAだったので、本来は修理せずにそのまま使えたのですが、
念のため交換しました。分解してみて、電解液が残っていたので少し後悔はしていますが・・
端子の識別が番号や色ではなく、シンボルになっているところが面白いです。


出力トランスですが、上に付いているCR類は、コンデンサ・スピーカのネットワーク回路です。交換したのは7MΩの抵抗2本です。
断線状態でした。但し、7MΩは標準値ではないので、3.3MΩと3.6MΩの直列接続としました。


音量ボリュームは交換しました。軸は、パイプで延長しています。


トーンコントロールの全体です。

左下のトーン・ボリュームを回すと、糸掛けにより緑色のプレートが上下します。
このプレートはZ字状に窓が作られており、裏側から白色のパイロットランプで照らすことにより、音質調整状態を表示する、
トーン・インジケータとなっています。下の写真が点灯した状態です。



フロントパネルを通してみると、このように見えます。左側がヘ音記号(BASS:低音)、右側がト音記号(TREBLE:高音)です。
これは、プレートが一番下に来たときで、中音から高音を強調します。


これは、プレートが一番上に来たときで、低音から高音までの全帯域を強調します。


トーンコントロール用のボリュームは大変特殊なものです。センタータップがあり、左右で500kΩのAカーブとなっています。
(下の図を参照)
おまけにスイッチ付きなので、代替部品はまず入手不可能です。このスイッチは、音質回路のコンデンサを
切り替えるものです。分解清掃しましたが、抵抗体が劣化していて、抵抗値が1.2MΩと倍になっています。
ガリはないので、抵抗変化特性を我慢して使うしかありません。


トーン・ボリュームの抵抗値変化カーブです。

センターを中心に、左右が500kΩのAカーブとなっているのですが、劣化しているので2倍以上の抵抗値となっています。
このままだと、左右に回し切ったときに音質が変わってしまいます。
仕方がないので、1MΩを並列に接続して、最大値が約500kΩとなる様にしました。
橙色の曲線が対策後です。Aカーブではないのですが、これが限界です。


コンデンサ・スピーカーです。周波数特性は不明ですが、壊れていないので助かりました。


コンデンサ・スピーカーの振動面です。アルミフォイルが張られています。直流バイアスは+B電圧です。


一通り修理が完了したので、調整に入ります。

まずはIFTの調整です。これはDXモードのIF帯域特性です。若干、非対称ですが、こんなものでしょう。
(センターが455kHz、左右のマーカーが±10kHz)

実は、調整によっては、共振を強くして大幅に高感度にできるのですが、
そうすると、下の写真のHiFiモードとの感度差が大きくなりすぎて困るのです。


こちらは、HiFiモードのIF帯域特性です。

1段目のIFTをパイ型バンドパスフィルタ状に切り替えているので、非常に広帯域ですが、帯域内のリプルも大きいです。
フラットで、且つ、左右のバランスを取るのが大変でした。これでも満足な特性ではないのですが、これ以上は無理でした。
トラッキング・ジェネレータか、このようなジェネスコープがないと調整はできない特性です。

IFTの調整ができたので、目盛合わせとトラッキング調整も完了です。



ようやく完成と思ったのですが、最後に問題が発覚しました。

ボリュームをゼロにしても音量が絞り切れないのです。ローカル局を受信すると、そこそこ聞こえるレベルです。
6AV6の不良かと思い交換しましたが変化がありません。

SGから変調波を入力して、波形を観測してみました。オシロスコープの波形は、上がIFTの2次側、下がスピーカー端子です。
電圧スケールは10倍で、CH1=5V/div、CH2=20mV/div です。40mVpp程度の出力が出ています。


6AV6周辺回路は左のようになっており、カソードにNFがかけられています。
ラジオ工房掲示板で色々とアドバイスを頂き、最終的には、このカソードがGNDに落ちておらず、
強力な電波が入るとカソードが振られて、プレート検波で音声が漏れてしまうことが判明しました。
検波をダイオードに変更し、平滑用のCRをGNDに落とせば改善できるのですが、それでは
オリジナル性が損なわれるため、このままにすることにしました。
当時は、ラジオを近くで聞くことはなく、かなり離れて聞いていたので、多少の音漏れがあっても
問題にならなかったものと推測します。
リモートコントロール用の端子があるのも、離れて聞くことが多かった証拠ではないかと思います。


交換した部品です。6BA6もリークがあったので交換しました。あと、ブロックケミコンの中身は写っていません。


全ての修理が完了し、シャーシを組み込んだこころです。



マジックアイも新品に交換しました。

HiFiモードにすると、大変良い音で鳴ります。混信がなければ、中波でもこんなに
高音質でラジオを聞くことができるのだと感心しました。

2022年5月1日
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